case study02
「女性として、建築家として、母として」遠藤幹子

第4回 アムスの輝く保育園!〜自発性と自己責任のための自由〜
今回はオランダの友達が経営している本当に素晴らしい保育園を紹介します。

アムステルダム市街真っただ中、ニューマルクト広場のすぐ近くにあるこの保育園は、私の友人のSim(シム)という50代後半の男性が経営しています。4階建てくらいの住宅や店鋪が連立するブロックの1階にあり、近隣と共有している中庭があります。もともとは普通のブティックが入るような普通のテナント空間なのに、中に入るとビックリ!まるでトム・ソーヤとかピーターパンの隠れ家みたいな、自由と創造と遊びと冒険と夢と輝きと..そんな響きに満ち満ち溢れた、ものすごいオーラを発した空間が広がっているのです。

まずびっくりするのが、四角い室内に張り巡らされた、迷路みたいな木の空間。本人が何年もかけて作ってきたものだそうだけれど、とにかくすごい。靴箱の上が階段になっていて、トンネルや階段をくぐってシースルーの天井部屋に続いています。途中に滑り台があったり、ぶらさがりロープがあったり、いきなり落とし穴があったり。0歳3ヶ月の子から4歳までの子までが、ここの迷路の中でキャーキャーいいながら鬼ごっこをしたり、秘密基地を作ったり、階段の順番で喧嘩したり、飛び下りたり、落っこちて泣叫んだり、隠れていじけていたり、とんでもない興奮を繰り広げているのです。





左上/室内ブランコ
オランダの冬はとても暗くて天気が悪い。幅60cmくらいの狭いところなのにブランコまで作ってしまった。

右上/すべり台
あぶない。でもみんな上手にすべっていた。天井の迷路空間から降りてくるようになっている。

左下/階段すべり台
これは多分本当にあぶなかったから、マットを敷いてあるんだと思う。もちろん土足だからこういうマットはとても汚れている。

右下/トンネル階段
こういうのの幅は60cmくらい。小柄の私でもギュウギュウやっと入れるくらい。赤ちゃんが中に入って泣いてしまった場合、だっこして降りてくるのは相当たいへん。




それから、天井から吊るされたガスストーブ。3歳児なら届いてしまう高さにあって触るともちろん熱い。みんなストーブの「底」をいつも見上げている格好になります。本当に落っこちてこやしないか、大人の私でも行く度にハラハラしてしまいます。

壁にはとんでもない数のがらくたが張り付けられ、大工道具や木の合板が放置されたままになっています。壊れた自転車のペダルを大きい子が恐ろしい勢いでぐるぐる回しているし、ペンチもクギも子供の手の届く場所に置いてあるし、引き出しをあければノコギリだってキリだって簡単に取りだせます。



ストーブ
右手の壁と天井からガスストーブが釣り下がっている。子供の背では下の部分にしか届かないけれど触ればもちろん熱いし、大人はよけて通らなければならない。



がらくた壁
壁一面になんかいろいろ引っ掛かっている。オランダ人は自転車で仕事や学校に通うから、そういうパーツが多い。シムの家はもっととんでもないことになっているらしい。





お昼寝用のベッドなどもちろんなく、眠くなったらそこらへんのソファかどこかで寝ればいいそうです。唯一床に転がっているベッドマットは、隣のピアノからのジャンプ場になってしまって穴だらけでボロボロ。

一応ランチを用意したり大人のコーヒーを入れるキッチンがありますが、ポットもお皿もみんな子供たちのおままごとセットと化しています。うちの子が勝手にいろんなもの使い始めたので「これ使っちゃってもいいの?」と聞いたら、「....?、なんで?」だって。すいかを湯通しして消毒する日本の保育園では考えられないです。




左/キッチン
お皿を洗うのもコーヒーやミルクを湧かすのも、このおもちゃで散らかっているキッチンでやらねばならない。
右/ランチタイム
カチカチの黒パンにチーズをのっけたりバターやペーストを塗って食べる。かたまりのパンとチーズを1人分ずつガリガリナイフで切るので、とても時間がかかる。お皿はおもちゃの赤いプラスティックのもの。



ある夏の日びっくりしたのは、ある男の子がくそ暑いのになぜか革のジャケットを裸の上に着ていました。どうしてもそれが着たかったらしく、とても誇らしげ。でも、「汗かいちゃったっ!」と言いながらそのまま服の上からホースで水浴びをし始めたのです。シムとの会話から推測すると、どうやら自分でちゃんと乾かすことができるのなら、ジャケットをびしょびしょに濡らしてもいいよ、と男同士の約束をしていたらしいです。

とにかく、「何をしてもいい」のがシムの保育園。その自由は絶対に大人が汚してはいけないこと。ただそういう環境の中で子供たちは、「自分で決めたことを自分で責任を取ってやる」ということを学んでゆかなければならないのです。

先日たまたま学習院の近所を通りかかったら、たぶん小学校入試の説明会だったようだけれど200人くらいのお母さんとすれ違いました。私が見た限り、2人を除いて皆、紺色の上下のスーツを着ていました。リクルートスーツを彷佛させる「お行儀」を最優先するあの母さん方が見たら、シムの保育園の子供達の振るまいは発狂しそうなくらい許せないのかもしれません。確かにみんな青っパナ垂らしていて大人の言うことなんか全然きかないけれど、しっかりした目をしていて、真直ぐ大人の目を見ることができる子供たちです。1歳でも2歳でも3歳でも、自信と誇りに満ちあふれ、大人たちと対等に意見を交わすことを知っているのです。

オランダでも特にアムステルダムは「自由」を大切にする街。その文化を象徴するかのようなこの子供のパラダイスに行く度に「自分の意志」とは何なのか、目からウロコが落ちるくらい考えさせられます。アムスに行ったなら、是非訪れて欲しい場所の一つです。(2002/10/15)
(La Cre`che: Koningsstraat, Amsterdam)


左/ぐるぐる台
これも手作り。ぐるぐる回る軸の上の方に、誰かのいたずらで服を脱がされた人形がくくりつけられていた。。
右/舵取り室
出窓で中途半端になってしまった角の空間を、船の舵取り室みたいにしてある。水の街オランダでは自分のボートで週末の運河クルーズを楽しむ人が多い。シムもその一人。
下/中庭
周りの住民と一応共有している中庭。水が貯まっている浴槽とか半壊した小屋とか、そういうミステリアスな場所でのドキドキがシムは大事だと思っている。最近の都心ではなかなか見られない光景だから。この中庭のまん中に私が設計した遊具が置かれる予定。



all photos copyright:Jiro Endo






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