case study13
「母子保健から見る世界(仮)」
石井澄江
Does Anybody Really Know What Time It Is?
いったい現実を把握しているものは
いるのだろうか?

母子保健から見る世界
対談:石井澄江×桑原茂一
dictionary deluxe
「mother meets JOICFP」掲載

産む性というのは、次の世代のことを必ず考えます。
illustration:Yukari Miyagi


桑原(以下、桑):ジョイセフの活動は子どもをよりベターな状況で産んで母親を助けるということですが、例えば男尊女卑【1】だったり、歴史を見ると社会の中にどうしてもそういうことがある。それは社会の成り立ちを変えないと改善できるものではないですよね。戦後この活動が生まれてから【2】目指されているのは、貧困な人達を救う活動なのか、それとも第三世界の人々へ意識改革を促す活動なのか、そこを伺いたいのですが。
石井(以下、石):ジョイセフの基本的な信念は、いつどんな国・地域であろうとも、産まれてくる子どもは、望まれて産まれてくる子、そして健康な子、ということなんです。ですから女性が、自分の欲しい時に、欲しい人数、健康な状態で健康な子どもが産める環境づくりをしたい、それ以上でもそれ以下でもないです。【3】
桑:社会の改革を推進するというよりは、女性の地位向上、自立に絞って活動していこうとしているのですか?
石:女性の問題を女性だけに絞ってやってもうまくいかないんです。大切なのは環境作りなんです。目指すところは女性が欲しい時にいい状況で元気な子が産めるということであっても、地域全体の意志としてこのことを受容する形にならないと続かないんです。
桑:環境問題も選択肢で、その地域社会がどういうエネルギーで生活するか選択を迫られる訳ですよね? ですから時間がかかるし、既存の生活の中にヒエラルキーがある以上、新しいヒエラルキーを作ろうとすると反発も起きるし、たぶん意識改革が起こらないとなかなか移行できないという問題があります。
石:ただ、環境問題より対立は比較的少ないと思います。というのは、命が大切ということ、みんなの健康を守りたいということは比較的共通している。それからグローバライゼーションというのはやっぱり起きていて、いろんな地域でいろんなことが変わってくると、どんな山の中でも変わることってやっぱりあるんです。そういう中で、自分たちが少しでもより良い生活をしていきたいという願いをどう実現するかという筋道で少しずつ話しをしていくとわかってくれる。ただ、頭でわかるのと体が動くのとは別なんですよ。で、体で動いてそれを継続するのはもっと別なんです。だから10年以上かかっちゃうんです。
桑:このフリーペーパーをやっていて、今非常に大きく意識改革を迫られているのは、9.11以降、世界をどう見るか? ということなんです。
坂本龍一さんが9.11後、瞬時に動き反戦ではなく「非戦」という表現で世界から論考を集め本を出されました。今は環境に関する活動もされているんですけど、なぜこんなに対立が起こるんだろうか? と非常に悩まれたようです。そんな時に、彼はアフリカで象の研究をされている女性動物学者の方と知り合い、あるポジティブな方向を見ることができたと【4】。象という種はこの地球上に人間よりも長く生きているらしく、その存続理由に目を向けたところ、象は母性社会で、リーダーは常に年長の女性が担当し、群れの向かう方向を決めるそうなんですね。しかも独裁的な決め方ではなく、反対意見が出るとみんなが理解しあえるまでずっと輪になって話しを続けるそうです。その話しを聞いた時に、教授はほっとしたらしいんですね。未来をもっと女性に委ねることで、社会はずいぶん居心地が良くなるのではないか? 種の存続も延びるんじゃないか? っていう、すいません受け売りで(笑)。単純な私は「あ、じゃあ女性にお任せしよう」って(笑)。


【1】女性が教育を受ける機会が少ない国では、医療従事者になる資格を持つ女性がいないことも、保健の充実の障害となっている。また、南アジアの一部では、ダウリ(持参金)と呼ばれる慣習があり、女性が結婚する際に金銭や物品を持参する。その為に男の子が望まれ、男の子を産む為に多産となるケースもある。ジェンダーの問題は、儒教の教えが根強い国・地域にも顕著に見られる。

【2】60年代、戦後短い期間に乳児死亡率や出生率の著しい低減と家族計画の高い普及率を実現した日本の家族計画・母子保健分野での経験やノウハウを開発途上国に移転して欲しいという国際的な要望が高まり、1968年4月に外務省・厚生労働省の認可法人として財団法人ジョイセフ(家族計画国際協力財団)が設立された。プロジェクト実施国は、主にアジア、アフリカ、中南米地域。巻頭の家庭用出産キットの普及もプロジェクトのひとつ。

【3】“リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)”という概念で、妊娠・出産のシステムおよびその機能とプロセスにかかわるすべての事象において、単に病気がないあるいは病的状態にないということではなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態(well-being)にあることをいう。

【4】動物学者ジョイス・プール博士との対談がおさめられた、DVD BOOK「エレファンティズム/坂本龍一のアフリカ」 木楽舎 HP



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