case study13
「母子保健から見る世界」石井澄江

第10回 ジョイセフトークショー「アフリカの悲惨な現状について」



アフリカの悲惨な現状について

大野:今日、お話をしていこうとしているのは、今、深刻と言われているアフリカのエイズとHIVの状況なんですが、NOBUさんに説明をしていただきたいと思います。
NOBU:私、ジョイセフでアフリカを主に担当してまして、特に3カ国、ガーナ、ザンビア、タンザニアに行く機会が非常に多いんです。先ほど、世界全体で約3,900万人って申し上げましたが、もう少し細かく言うと、3,860万人が感染してて、そのうち、サハラ以南アフリカの割合がなんと、63パーセント。

大野:半分以上ですね。
NOBU:そうですね。かなりの数のHIVの陽性者が、サハラ以南アフリカに集中しています。特に深刻なのは、東から南部アフリカにかけてです。特に南部アフリカの状況が非常に深刻です。南部アフリカの国の一つ、スワジランドっていう国があるんですが、その国は15歳から49歳の人口の、なんと3分の1がHIVに感染してしまっていると報告されている。
大野:ということは、3人に1人という。
NOBU:はい。先ほど私、ザンビアにも行くと申しましたが、ザンビアも南部アフリカの国なんですが、ザンビアの感染は約6人に1人という状況になってます。
大野:そんなにたくさんの人が感染してると、その人たちに対して温かい目で見てくれるのかなって期待しちゃうんですが、差別とか偏見は、もうないのではないのでしょうか。
NOBU:スワジランドは行ったことがないのでわからないんですが、ザンビアでは、差別偏見はまだまだ強いです。特に田舎の方ほど強いですね。
大野:その6人に1人、向こうはきっと大家族も多いと思うので、家族の中に1人とか2人とかエイズの陽性の方がいらっしゃるとしたら、それはもう、どこの家庭でもありうることですよね。いろんな職業の方もどんどん亡くなるし、お母さんや子供もどんどん亡くなって、国としてすごく大問題として取り上げてるんじゃないかと思うんですけれども。
NOBU:はい。先ほど申し上げましたように、主な感染経路っていうのがやっぱりセックスによる感染で、セックスによる感染が起こる人たちっていうのは、15歳から49歳までの年齢層なんです。社会的にも、経済的にもとても活発に活動する人たちの層ですよね。農業を一生懸命やっている方々もいれば、政治家、教員、医療従事者、軍隊や警察、いろんな人たちがいます。そういう人たちがバタバタとあちこちで亡くなっていく状況は、国家的な危機だと思いますね。
大野:そうですよね。世界的にアフリカのエイズ問題が取り上げられていますが、それだけ進行具合がものすごく速くて、危険な状態にあるっていうことだと思います。なぜ、アフリカでそんなにエイズが蔓延してしまったのかが疑問なんですけれども。
NOBU:いろんな理由があると思うんですね。ここに私の思い浮かぶ範囲で箇条書きにしましたが、これ以上のこともあると思います。あくまでもこれだけではないということで説明させていただきます。まず、慢性的な貧困。これが非常に大きいですね。それから紛争。女性の地位の低さ、特に性に関する交渉力が女性にない。それからHIVを広めてしまうような性に関する伝統や習慣。あと、エイズに関する間違った認識。それから、各国の対策の遅れ、特に政治家の無関心。保健情報やサービスの普及度の低さ。コンドームの使用率の低さ。教育、特に女子に対する教育の遅れ。紛争や経済活動による人の動き。それから、HIVのアフリカ起源と進化。こういういろんな条件が重なり合って、今のような状況になってしまったと言えます。
大野:ちょっと関心があるのが、やっぱり女性の地位の低さっていうところです。

NOBU:先ほどの話の一環でもありますが、例えば夫にセックスを迫られた場合に決してノーとは言えない。コンドームを使って、っていうのは、口が裂けても言えない。それから、ついこの前、一世代、二世代前までですね、一夫多妻が普通の状況だったわけですね。
大野:じゃあ、拡がりやすいっていうことですよね。それから間違った認識っていうのは、どういうことなんでしょうか。
NOBU:これも、アフリカに限ったことではないんですが、例えば、HIVに感染しても、処女とセックスをすれば治るという間違った認識があったりしました。
大野:あと、各国の対策の遅れ、政治家の無関心、なんでしょう、これは。
NOBU: 80年代から90年代半ばにかけてですね、トップクラスの政治家がHIV、エイズが自分の国の大問題だというのを認識しない、無関心だった。ところが、ウガンダっていう国がありますが、大統領が自ら音頭をとって、自分たちの問題を明らかにして、対策に力を入れた国もあるんです。いろんな活動が実施され、いろんな働きがあって、今はかなり感染率が減っている、そういう国もあります。それ以外の国は関心が低く、要は政府のプライオリティーが低かったということですね。
大野:隠したかったとか、そういうことも含まれるんでしょうかね。
NOBU:隠したかったというよりは、優先順位がかなり低かったと。他のいろんな開発課題、または経済の課題だとか、アフリカは問題をたくさん抱えてますので、その中で優先順位が非常に低かったということが考えられると思います。
大野:保健情報やサービスの普及度の低さというのも、説明していただきたいんですが。

NOBU:特に田舎の方に行くと、保健施設というと保健センターみたいなものがあるんですが、そこは看護婦さんが1〜2人いるだけで、広大な範囲の地域をその2人が診なくちゃいけないという状況なんですね。村と言っても、家が固まってたくさん存在してるのではなく、あちこちに点在しているわけです。そういう中で、情報にしてもサービスにしても非常に行き届きづらいということが言えると思います。
大野:最近はアフリカだけでなくて他の貧しい国、アジアとか南米の方でも、たくさんのエイズ孤児の方が生まれてるっていうことを耳にしたり、目にしたりするんですけれども、母子感染について聞きたいんですが。
NOBU:先ほど感染に関わる4つの体液を申し上げましたよね。血液、精液、膣分泌液、母乳。母子感染に関わるのは、血液、母乳の2つです。赤ちゃんがどこでその2つの体液と接するかというと、妊娠中、分娩中、授乳中の3つの場面が考えられます。大雑把に言って、妊娠中に約10パーセント。それと分娩中に20パーセント。授乳中に10パーセント。合計40パーセントの確率で、HIVに感染したお母さんから、赤ちゃんに感染すると、言われてます。
大野:じゃあ、40パーセントということは、10人だったら、4人ぐらいの赤ちゃんが感染するっていうことですね。
NOBU:そういうことですね。
大野:じゃあ、感染しない場合もあるし、たぶん予防策もあるんではないかって期待しちゃうんですけれども。
NOBU:はい。日本のような先進国では感染の確率をかなり減らすことができます。抗HIV薬というお薬があって、そのお薬を妊娠後期くらいから飲んでもらう。それで、分娩は帝王切開で、なるべく母親の血液と触れないようにして赤ちゃんを取り出す。出産後、おっぱいはあげない。これで2パーセント以下にまで確率を減らすことができます。
大野:かなりの確率で、低くできるっていうことはすごく嬉しいし、予防もできるっていうことでなんかほっとするんですけれど、今のお話は、日本の場合での予防策っていうことですか。
NOBU:はい。
大野:じゃあ、さっきからお話しているアフリカでは、予防策とか取れるのでしょうか。
NOBU:途上国、アフリカなどでは予防策を取れない場合の方が多いです。先ほど申し上げた薬は非常に高価ですし(今では途上国向けのお薬の値段は下がり世界的な基金も設けられたため、薬へのアクセスもよくなってきてますが)、帝王切開をできる保健医療施設っていうのもそうあちこちにあるわけじゃないですね。ですから、非常に限られていますよね。
大野:そうですよね。貧困で、交通も不便で、病院もたぶんあんまりないと思われるから、そういうところでお金をかけるっていうことは、ものすごい贅沢だし、無理なんですね、きっとね。
NOBU:そうですね。それで、日本であればおっぱいを飲ませないという選択肢も簡単にあるわけですけども、アフリカとかだとまず粉ミルクは手に入らないんですね。手に入ったとしても、安全で清潔な水が手に入らないわけです。安全じゃない水で粉ミルクを作ってあげたとすると、今度は別の感染症にかかっちゃったり、違う病気で死んじゃったりするわけですね、赤ちゃんが。
大野:絶対その確率も高いですよね。
NOBU:あともう一つ、アフリカでは母乳をあげるのが当然なわけですね。それで、万が一、粉ミルクと安全な水が手に入ったとしても、それで、ボトルで赤ちゃんにミルクを与えてると、あの人は何なんだろうと差別偏見の対象になってしまう。


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