case study13
「母子保健から見る世界」石井澄江

第9回 ジョイセフトークショー「無関心の裏側で、増加する一方のHIV感染者」



無関心の裏側で、増加する一方のHIV感染者

NOBU:エイズ・デーとは、1988年にWHO(世界保健機関)という国際機関が、「エイズへの差別とか偏見を取り除いていこう」「予防のための啓発活動を活発にしていこう」と呼びかけて、12月1日を世界エイズ・デーと定めたんですね。それ以来、毎年12月1日に、いろんなイベントが行われるのです。ちなみに、毎年テーマがあって、『Living Together〜今私にできること〜』というのが、今年のテーマです。
大野:私は日本に生まれ育ってますけれども、身近にエイズの方もいらっしゃらないし、それで困っているという方もそばにはいないので、あんまりピンとこないんですけれども。
NOBU:みなさんそれが実感、と思います。ただ、グラフをみなさんにお見せしたいんですが、これはHIV感染報告数の推移です。1985年以来、ずっと増え続けているんです。こういう状況に、今、日本はあるのです。

大野:ここにHIV感染と書いてありますけれども、“エイズ”と“HIV”というのは、どう違うんでしょうか。
NOBU:“HIV”というのは“エイズ”を引き起こすウィルスの名前です。“人免疫不全ウィルス”という日本語名がついていますが、このウィルスに感染したからといって、すぐにエイズになるわけではないんですね。ウィルスに感染してから、長い年月をかけてHIVは体の中の免疫システム(病気から体を守ってくれるシステム)を徐々に崩壊させていく。そうすると、いろんな病気にかかりやすくなる。そうなった状態のことを、“後天性免疫不全症候群”、つまり“エイズ”って呼んでます。
大野:エイズに感染するっていうのはどういうことだかとか、その感染経路を、みなさんご存知でしょうか。じゃあ、そこのお母様は、いかがでしょうか。
女性:そうですね、性交渉、いわゆるセックスですよね。それで感染するっていう、大まかな知識しかわからないです……。
NOBU:ありがとうございます。セックスで感染するということで、まさにその通りですが、基本的に、感染に関わる人間の体液っていうのが4つあるんですね。1つは血液。それから、精液。男性から出てくる精液ですね。それから、膣分泌液。女性の膣の中から出てくる分泌液ですね。それから、母乳。この4つの体液が、感染している方から直接自分の体の中に入るか、または自分の粘膜組織に触れるかによって感染の可能性が出てくることになります。
大野:このグラフでもわかるように、日本では、今、本当にたくさんの方が感染してしまっているようです。でも、まだそんなにピンときてないっていうのが本音だと思うんですけれども、もう少し説明をしていただけると。
NOBU:これは、今まで感染した方々の合計のグラフですね。もう1つ、これはその年ごとに、感染した方々が何人いるのかという報告です。その年ごとに報告された数ですね。この数が、やっぱり増えてきてます。青い方が男性、赤い方が女性の数です。こうやって見ると、男性の報告数が増えてきていることがよく分かります。ただし、女性も感染してきています。実は、こうやって毎年、新たに感染する数が増えてきているのは、先進国では珍しい。日本は今、珍しい存在になってます。
大野:やっぱり意識が低いんですね。
NOBU:そうですね。これは、HIVの感染経路を円グラフにしたものです。2005年までの累計ですね、これを見ますと、異性間のセックスが37.5パーセント。それから同性間のセックスが42.2パーセント。合わせて約80パーセントですから、ほとんどがセックスによる感染です。同性間のセックスというのは、これはほぼ男性ですので、女性に関わる部分というのは、この異性間の性的接触ということになります。
大野:はい。
NOBU:それでですね、先ほどのグラフもそうですけど、男性の方が問題が大きいように思われますよね。確かに30代の男性の、特に同性間でのセックスによる感染がかなり増えてるんですが、でも、女性に関係ない話かと言うとそうではない。異性間のセックスによるHIVの感染、これは特に若い人たち、15歳から24歳までの間の人たちの異性間の性交渉だけを見た場合、こういう状況になってます。
大野:女性のほうが多いですよね。最近、ここ2005年、2004年とか。
NOBU:そうですね。若い世代において、特に女性のセックスによる感染というのが増えてきているということです。
大野:でも、このグラフを見ると、この2005年の、一番最後の年の報告だと、女性は8人っていう……。1年間で8人って思っちゃうと、少ないんではないかなって思ってしまうんですけれども。
NOBU:はい。数としては、なんだ、たった8人かっていう感じをお受けになるかもしれないんですが。その前にこういうグラフをちょっとお見せしたいと思います。
大野:はい。
NOBU:これは、異性間のセックスによってHIVに感染した方々の男女比です。先ほど、若い人は女性が多いっていうことを申し上げましたよね。15歳から19歳、20歳から24歳、この層が男性よりも女性のほうが、陽性者が多いという状況になってます。それで、先ほど由美子さん、人数としてはそんなに多く感じられないということをおっしゃったんですけど、ちょっと角度を変えた話をしてみたいと思います。
大野:はい。
NOBU
:みなさん性器クラミジアって聞いたことがありますか? 性器クラミジアは、セックスでうつる感染症です。これは、何らかの症状が出て、治療を受けた人の割合の、各年ごとの変化を表したグラフなんです。
これを見ると、80年代までは女性のほうが低かったんですが、それ以降、女性が高くなってきてます。2000年になると、男性の2倍の感染率です。もう一つ、先ほどのところと通じるお話ですが、これがやはり性器クラミジア感染症の、これは全国的な調査の結果です。何らかの症状が出て治療を受けた人の率を年齢別にまとめたものです。これは1999年の調査の結果ですので、データとしてはちょっと古いんで、今はこれよりも進行していると思います。これを見ていただいて、どうですか、由美子さん。
大野:15歳からだと4倍近く女性の方が多くて、ものすごい数で女性が感染しているっていうことが見られますね。
NOBU:そうなんですよね。20歳から24歳までを見てみると、10万人に対して1,300人の女性が感染しているという、非常にショッキングなデータですね。ちなみにこのデータは、先ほども申しましたように、症状が出た人なんですね。ところがクラミジアっていうのは、症状が非常に出にくい病気です。感染しても、5人に1人ぐらいの割合でしか症状が出ない。ということは、先ほど10万人に対して1,300人って申し上げましたけども、そのさらに4倍の人たちは、症状がなくて治療もされてない、でも感染しているという人たちだということです。それがとても恐いんです。
大野:そのクラミジアという病気は、私は聞いたことがあるし、妊娠した時に病院で調べることが義務付けられているようですけれども、どういう病気なんでしょうか。
NOBU:クラミジアそのものは、微生物、菌みたいなもので、それによって病気が起こりますが、先ほども申しましたように、症状が出なかったり、または比較的軽い症状しか出なかったりします。じゃあ、ほっといても大丈夫なんだ、って甘く見ちゃうと、これは後々えらいことになってきます。中へ中へと感染が進行していくんです。膣から感染して、そこから菌は子宮の方に行きます。子宮から今度は卵管という卵巣につながっている細い管へ、そして卵巣に感染が広がっていく。そうすると、不妊症になったり、または、その卵管が詰まっちゃうんです。中途半端に詰まっちゃったりするとですね、妊娠がその卵管の中で起こっちゃう。精子と卵子が受精して、受精卵が卵管の中を送られて子宮に向かって移動してくるわけですけども、途中でその管の中でつまっちゃうんですね。それで子宮外妊娠になる。そういうことも起こってしまう。
大野:症状が見えないで、知らない間に体の中で進行しているって、なんか恐いですよね。
NOBU:そうなんですよね。それで、実はクラミジアや他の性感染症に感染していると、HIVにも感染しやすくなってしまうという事実もわかっています。先ほどクラミジアは症状が出にくいと申しましたが、HIVも非常に似ていて、感染して症状がないまま知らないでいると、ずっと経ってから免疫が壊されていって、エイズを発症する。その間が非常に長いから、セックスのパートナーに感染させてしまうんです。そういう意味では、「クラミジアの陰にHIV感染あり」って、よく言われるんですね。クラミジアはとにかく、若い女性の中でかなり感染が広がってしまっています。みなさん自分のこととして捉えていただくことが非常に大切だと思います。性生活を持つ人であれば、誰がクラミジアに感染しても全然不思議じゃないという時代に、私たちは今、生きているというということです。
大野:世界のHIVとエイズの状況はどうなっているのでしょうか。
NOBU:はい。今、世界で感染者が約3,900万人って言われています。それで2005年は、1年間に約400万人が新たにHIVに感染している。それで、エイズで亡くなった方々が300万人と言われてます。
大野:1年間にですか。
NOBU:そうです。1年間に300万人。これはちょっと計算してみるとですね、だいたい1分間に8人が新たに感染して、6人がエイズで亡くなっているという計算になります。
大野:ここで今考えると、このしゃべっている間に8人の方が感染して、6人の方が亡くなるっていう……すごい……。NOBU:そうですね。刻一刻と、感染者が、そしてエイズで亡くなっている方が増えている。先ほど、300万人が昨年1年間に亡くなられたと申しましたが、2004年末にスマトラ沖で地震、津波の災害がありましたよね、あの災害で亡くなられた方は何人か、ご記憶にある方、いらっしゃいますか。約30万人です。ということは、あの津波や地震の災害が、1年間に10回あったようなものです。
大野:はい。
NOBU
:そんなにすごいことが毎年起こっているのに、われわれはそのことを知ってるでしょうか。
大野:知らないに等しいですね。
NOBU:そうなんですよね。ここがとても問題だと思うんです。こういう例えがよくされるんですが、カエルを熱いお湯の中にポチョンと落とすと、カエルはいきなり熱いんでびっくりして飛び出ようとするそうです。ところが、水の中にカエルを入れといて、徐々に温めていくと、沸騰するまでそのままで、死んじゃうんだそうです。我々の感覚っていうのは、それに似たようなところがあって。
大野:近いですよね。危険が高いものに関しては敏感で、地震がきたとか、そういうことにはすごい関心は高まるんですけど、じわじわ進行している危機には、なんでしょう、人間が弱いんでしょうか、日本人が弱いんでしょうか。
NOBU:そうですね。なんか感覚が鈍ってしまってますよね。


次のページへ > > >








(C) Copyright 2007, CLUBKING Co. All right reserved